tirokko’s diary

私が面白いと思った本、おすすめしたいと思った本を紹介していきます☺️

何者

 

あなたは何者?


そう尋ねられたらなんと答えよう。
古いボロアパートのベランダで僕はしけったタバコを咥え、どんよりとした夜を見上げる。
何者…僕は何者なんだろう。
 白い煙を遠くに吐き出す。体に悪いとは思えないほど綺麗で白い煙は黒い夜に漂いどこかへと消えていく。

僕はいつからか何者でもなくなってしまった。

いつからだろう。

人間は誰だって意味を持って生まれてくるんだ。僕だってそうだ。

人間として生まれ、何者かになるために生きていく。小さい頃は何者にだってなれたし、それを当たり前だと思っていた。

ただ今の僕は当時の僕など見る影もない、何者でもなくなってしまった。

 

幼き頃に思い描いた大きな夢は僕が何者かになるための設計図だった。

しかし、大人になるにつれその設計図は子どもが描いた単なるおままごとでしかなかった事に気がつく。

そのおままごとを真剣に続けられたものだけが、壮大な設計図を完成させることができるのだろう。

ただ、それは難しい、だって大人はおままごとをしないのだから。

みんな子供であるべきだった、無邪気に我儘に子供をまっとうするべきだった。

しかし、みんな気づいてしまう。

「あぁ、僕はもう大人になってしまったんだ」

大人は子供の延長でしかない、ある日と境に突然大人になるわけではない。

みんな仕方なく、自然に大人になるんだろう。

僕は短くなったタバコを外へ放り投げる。

濡れたアスファルトにオレンジ色の光が小さく滲み溶けていく。

無邪気に、子供みたいに、僕は笑った。

「何者かになるために」

 

 

 

こんにちはちろです。

今回は「何者」を題名にお話を書いてみました。

読んでいただけたら嬉しいです。

タバコ

彼女に初めて会ったのは、大学の喫煙所だった。タバコを吸わない僕は、入学してすぐにできたばかりの友達かどうかよくわからないやつに連れられ喫煙所に向かう。男で溢れている喫煙所はなんだか煙たさとむさ苦しさでタバコに慣れない僕は気分が悪くなり、その場から去ろうとする。

「おい、どこいくんだよ」振り返ると森下がこちらをみていた。

「しんどいから、外にいるよ」

「あぁ、すまんな、すぐ行くから」森下は僕のような奴にも優しい気が使えるやつだった。

出口に向かおうと足を進めると、1人の女性が目に入った。透き通った真っ白な肌に、絹のように綺麗な長い黒髪、黒いジャケットを羽織り、気怠そうにタバコを加えた女性がそこにはいた。どこか人間とは思えない異質な雰囲気を持った彼女は1人でタバコを吸っていた。まるで彼女の周りには透明の壁があるみたいで、騒がしい喫煙所の中で1人佇む彼女の姿はどこか儚げだった。

「あの、タバコ1本貰えませんか?」気づけば僕はそう声をかけていた。今となっては何でそんなことをしたんだろうと、自分の行動だとは思えない。彼女は少し驚いたような顔を見せる。

「体に悪いよ」一言だけそう言った。その声は冷たく、どこか懐かしかった。

副流煙よりかはマシだよ」僕がそう答えると彼女は小さく微笑み、手慣れた手つきで1本手渡した。彼女の白い綺麗な手から手渡されたタバコは少し細かった。僕は彼女の隣に立ち、タバコに火をつけると、煙を恐る恐る吸い込む、メンソールの香りがした。むせそうになるのを必死に我慢し、横目で彼女の顔を窺う。彼女は真っ直ぐと、何も無い空間をただ眺めていた。僕たちは黙って、タバコを吸った。そこに会話は無かったし、雑音も耳に入らない。透明な壁の中で僕らは2人きりだった。その日から僕らは喫煙所で会うようになった、お互いに集まろうと言い合ったわけでは無かったが、僕たちは喫煙所の端の方で2人並び白い煙を吐くのだった。相変わらず2人の間に会話は無かったし、顔を見合わす事もなかった。しかしそこには2人の空間があった。

しばらくすると、喫煙所は撤去された、大学内ではタバコを吸える場所が無くなった。だから僕はタバコをやめた。

 


「お前、彼女作らないの?」僕の隣で森下がタバコを加えながら尋ねる。

「あぁ」僕たちはぼろアパートのベランダで並んで空を見上げる。星一つ見えないどんよりとした重たい夜が広がっている。

「いい加減作れよ、お前顔はいいんだからさ」森下は呆れたような顔でそういう。

「うん…」

「またそれかよ、もうやめろって」

僕はまだあの喫煙所を探している。あの誰にも邪魔されない2人だけの喫煙所を。

「はぁ、ったく」森下はそういうと、一本のタバコを僕に向ける。僕はそれを受け取ると、口に加え、火をつける。

「忘れられないんだよ」吐き出された煙はフラフラと暗い闇の中に漂うと、跡形もなく消え失せる。

久しぶりのタバコはメンソールの香りがした。

 

 

 

 

 

こんにちは、ちろです。

今日はタバコをテーマにお話を書きました。

読んでいただけると嬉しいです。

良い子

「サンタさんっていると思う?」

「いるよ、だってお母さんが読んでくれた絵本にサンタさんがいるって書いてあったよ」

「だよね!でもね、私のお家煙突が無いの。だからサンタさんおうちの中に入って来れないかも」

「本当だ、僕のおうちも煙突ないよ、どうしよう」

「でもさ、煙突じゃなくてもいいんじゃない?」

「どういうこと?」

「ドアの鍵を開けておいたらさ、入ってこれるじゃん」

「本当だ、じゃあ帰ったら鍵開けておくよ」

「あ、でも」

「でも?」

「お母さんが夜に鍵閉めちゃうかも」

「確かに、僕もお父さんが閉めちゃうかもしれない」

「ダメかぁ」

「でもさ、まだ方法があるかもしれないから考えようよ」

「あ、そうだ、窓の鍵を開けておいたらいいんじゃない?窓だったらお父さん確認しないもん」

「本当だ!そうしよう」

「でもさ、こっそり窓開けたら私たち悪い子になっちゃわない?」

「本当だ、悪い子にはプレゼントくれないんだった」

「はぁ、どうしよう」

「でもさ、勝手に人のお家に入るのってだめじゃん?」

「うん、だめだよ、お母さんが逮捕されるって言ってた」

「じゃあさ、サンタさん勝手に入ってきちゃだめじゃない?」

「本当だ、どうしよう。サンタさん日本の法律知らないんじゃない?」

「じゃあさ、私お家に来ないでくださいってお手紙書くよ」

「いいね、だったら安心だね」

「うん!良い子じゃないとだめだもんね」

 

 

 

 

こんにちは、ちろです。

読んでいただきありがとうございます!

コメント頂けると嬉しいです。

 

金木犀

金木犀が嫌いだ。病室の窓から見える金木犀は俺を嘲笑うかのようにゆらゆらと揺れている。

「喚起しましょうか」看護師さんが優しい笑顔でそういうと勢いよく窓を開けた。秋の寂しい風が病室の中に入ってくる、ふわっと金木犀の香りがした。

「何かあったら、気にせず呼んでくださいね」看護師はそういうと病室から出て行った。ベッドの横にある小さなテーブルには写真立てがひとつ置かれている。小さな額縁の中の笑顔を見ると心が痛くなる。僕の隣で笑顔を見せる美咲は出会った頃から体が弱かった。長くは生きられない、自らの口で涙を流しながら俺にそういった。案の定美咲の命は短かった。彼女は最後まで生きたいと自らの死を諦めなかった。太陽が低いところまで来て、オレンジ色に染まった病室の中で僕たちは2人きりだった。

金木犀のいい香り、私この香りが好きなの、なんだか優しい気持ちになれる」美咲は掠れた声でゆっくりと言った。

「あぁ、僕も好きだ。美咲にとてもよく似合ってる」

「そう?嬉しいわ」美咲の目には涙が溜まっていた。僕はその姿を見ていられなかった。全く状況を受け入れられない、ここに寝ているのが僕なら良かったのに。

美咲は僕の手を握りながら

「長生きしてね」そう言って息を引き取った。彼女が好きな金木犀が花開く秋の日のことだった。彼女が最後に残した言葉、その言葉は僕の心に突き刺さり今でも消え去る事のない重りとして僕の中心にぶら下がっている。俺は彼女を忘れる事はできない、忘れたくないし、忘れてはいけない。出来る事なら俺が先に死にたかった。この世界全てが彼女との思い出であるれている、どこにだって彼女の面影を感じる。俺は彼女を笑顔で見送り、前を向けるほど強い人間ではない。僕は彼女を愛していた。

彼女がこの世を去るとともに、僕は彼女の病気を受け継いだ。両親は運命を嘆き恨んだ。僕は嬉しかった、やっと彼女のもとに行ける、もうこの胸の痛みから解放されると思うと、心が軽くなった。しかし、今僕の目の前には美咲が立っている。いや正確に言えば美咲ではないのかもしれない。彼女は僕に向かって、自らを死神だと名乗った。よくわからないが、暇つぶしに僕のところに来たそうだ。僕を殺しに来たのではないらしい。

彼女は美咲の顔をして僕に何でもない話を持ちかけた。別に面白い話ではなかったが、彼女は一生懸命話を途切らせないよう話し続けた。なんだか、本当に美咲と話しているような気持ちになる。でも本当の美咲ではないのだろう、その考えが頭に浮かぶ度に心が痛んだ。

「あなた香水付けているの?」

「いや、付けてないけど、外の金木犀じゃないか?」

金木犀?」

「あぁ、知らないのか?」

「うん、知らない」

「そうか…」当たり前だ、彼女は死神なのだからわからなくて当然である、美咲では無いのだ。

「あなたはこの香り好きなの?」

「あぁ、好きだよ」彼女の前で嫌いだという事はできなかった。胸が痛む。

「そう、私もこの香り好き、なんだか優しい気持ちになれる」

「え…」

「ん?何かおかしいこと言った?」

「あ、いや」彼女の言葉はとても懐かしい言葉だった。なんだか目頭が熱く感じる。目の前がぼやけて、彼女の顔が見えなくなる。

「どうしちゃったのよ」彼女は驚いた顔をしてこちらを見つめている。

「いや、何でもない」

「そう、でもあなたと話していると落ち着くわね、私が人間の時はこんな感じだったのかしら」

「え、死神は元人間なのか?」

「私はね、人間だけじゃないわいろんな子がいるの、でも何も覚えてないの」

「そうか…」胸が痛む、もうこれは精神的なものではないのだろう、僕の心臓はだんだんとその役割を終えようとしているのがわかる。

「ねぇ、何か面白いお話してよ」

「なぁ」

「どうしたの?」

「僕を殺してくれ」

「どうして?」

「暇つぶしに来たなんて、嘘だろ?君に殺されるなら僕はそれでいい」

「あれ、バレちゃった?」彼女は驚いた様子で、こちらを見ている。

「ははっ」全く変わっていない、不器用だけど誰よりも人の幸せを願っている、誰よりも優しい人。そんなところが大好きだったんだ。彼女の手が僕の頬に触れ、優しく頭を撫でた。

「ありがとう美咲」僕はゆっくりと目を閉じる。窓から吹き込む風が心地いい。また会えたらいいな。金木犀の花びらが風に乗って、ひらひらと空を舞う。

「あぁ、いい香りだ。」

 

 

 

 

こんにちは、ちろです。

今日は金木犀をテーマにお話を書きました。

読んでいただけると嬉しいです。

死神

「死神って死ぬ人の目の前に現れるって知ってる?」

「あぁ、なんか聞いたことあるような無いような」

「それ本当だよ」

「そうか、じゃあ俺はもう死ぬのか?」

「いや、死なないよ」

「なんでだよ、お前死神じゃ無いの?」

「私死神だよ」

「なんだよ、じゃあ死ぬじゃねえか」

「違うよ、私は遊びに来ただけ、暇だったから」

「そんな理由で来れるもんなのかよ、あと死神ってこんな人間の見た目なの?」

「うん、私成績優秀だから、有給もらったの。どんな姿にもなれるよ、あなたこんな子が好きでしょ?」

「そんな仕事みたいな感じなのかよ」

「好きじゃ無い?」

「好きだけど」

「よかった、あなた良い香りね香水付けてるの?」

「ん?あぁ、外の金木犀の香りだよ、好きだったんだ」

金木犀って言うのね、私もこの香り好きよ」

金木犀知らないのか?」

「うん、初めて知ったわ」

「そうか…」

「どうしたの?」

「いや、別に、っていうか死神ってこんなフランクな感じなの?想像と全然違うんだけど」

「うーん、それは死神によって違うかも、前世の性格に似るんだって」

「え、死神って元は人間なのか?」

「人間の死神もいるよって話」

「そうなのか、知らなかった」

「私も元人間らしいけどね、若くして死んじゃったらしいの、全然覚えてないけどね」

「そうか、死神なら俺のこと殺してくれよ」

「どうして?」

「いいんだ、もうこのベットから動けそうにも無い、大事な人も居なくなってしまった。もう生きる意味はないよ」

「そう、お話ができなくなると思うと寂しいけれど、よくここまで頑張ったね」

「あぁ、どうせ俺が死ぬのも決まってたんだろ?気を遣ってくれてありがとうな」

「あら、気づいちゃった?おかしいな」

「ははっ、お前は不器用で優しいそういう人だよ」

「私は人じゃないよ、死神だよ」

「うん、いいんだ。最後に話せて嬉しかったよ、ありがとう、美咲ー」

「お話できて楽しかったのに」

 

 

 

「また会えるといいな」

 

 

 

こんにちは、ちろです。

今日は死神をテーマにお話を書きました。

普段とは違い、会話中心のお話にしてみました。

読んでいただけると嬉しいです。

大人

大学を卒業したら就職しなければならないらしい。そうするのが普通だそうだ。だから僕は就活をしている。就職活動略して就活だ。就職したらいい事があるのだろうか、僕はわからない。だって、就職した事がないからだ。両親は就職しなさいと僕に言った。だから僕は就職するのだ。だって、これまでも両親の言うことに従ってきたから。人生は一周しかないから、難しい。試しに就職しないという選択肢を取れないからだ。就職してない人の話を聞いてみればって?それで納得できるとは思えない。テレビで、三つ星シェフが美味しいと絶賛していた、市販のパンを買ってみたけど、全然美味しく無かった。面白いと思って書いた小説だって、誰にも認められなかった。そういうもんだろう?やってみなきゃ、経験してみなきゃ何もわからない。だったら、経験してみろって?それは難しいだろう。世界は僕が好き勝手できるようにはできていない。だから僕は万人受けするように、心を痛めながら、1文字1文字黒い字を並べるのだ。その田舎の深夜零時みたいに真っ黒な字はフニャフニャと紙の上を転げ回り、僕を嘲笑う。そんな闇に向かって僕は苦笑いするのだ。両親は今日だって僕に就職を勧める。彼らもまた、就職した世界に生きているからだ。就職を選ばなかった世界はまた別にあり、彼らはその世界に行く事はできない。僕はどちらの世界に行くのか、2つの世界を目の前にして、怖気付いている。そこに正解はないし、不正解もない。ただ親の期待と僕の思いがあるだけだ。

 

 

 

こんにちは、ちろです。

今日は大人をテーマにお話を書きました。

見ていただけると嬉しいです。

人生

人生ってなんだろう。何のために生きてるんだろう。どこかの偉い人なら、その答えを持っているのだろうか。私はわからない。廿数年の長いようで短い人生を鑑みても、それは一向にわからない。せっかく、この世界を生きるなら、幸せでありたい。私は今幸せだろうか。世界は日々目まぐるしく変わる。私の両親がまだ子供だった頃、携帯電話は無かった。

「今はなんでもスマホで調べるから、身につかん」父親はそう言いながら、今日のプロ野球の試合結果をネットニュースで確認した。気になる事がすぐ手に入る世界は不幸なのだろうか。わからない事は図書館に行って調べる。そうする事で知識が定着して忘れにくくなるんだ。それが幸せなのだろうか。

朝、道路に人影も車の姿も一切なく、何もない様子を写真に収められた時嬉しい気持ちになった。楽しくてやっているはずの、オンラインゲームで相手に負けた時コントローラーを投げ捨てた。午後の紅茶ミルクティーを飲んでいる少年の前で、誇らしげに無糖の紅茶を飲んだ。隣に座るおじさんの新聞を覗き込み、株価が暴落していることを知った。そのどれも人生であり。この人生を後80年送っていく。私の短いようで長い人生。

いつかわかる日が来るのだろうか。

あと80年、私の人生はあまりに短い。