あなたは何者?
そう尋ねられたらなんと答えよう。
古いボロアパートのベランダで僕はしけったタバコを咥え、どんよりとした夜を見上げる。
何者…僕は何者なんだろう。
白い煙を遠くに吐き出す。体に悪いとは思えないほど綺麗で白い煙は黒い夜に漂いどこかへと消えていく。
僕はいつからか何者でもなくなってしまった。
いつからだろう。
人間は誰だって意味を持って生まれてくるんだ。僕だってそうだ。
人間として生まれ、何者かになるために生きていく。小さい頃は何者にだってなれたし、それを当たり前だと思っていた。
ただ今の僕は当時の僕など見る影もない、何者でもなくなってしまった。
幼き頃に思い描いた大きな夢は僕が何者かになるための設計図だった。
しかし、大人になるにつれその設計図は子どもが描いた単なるおままごとでしかなかった事に気がつく。
そのおままごとを真剣に続けられたものだけが、壮大な設計図を完成させることができるのだろう。
ただ、それは難しい、だって大人はおままごとをしないのだから。
みんな子供であるべきだった、無邪気に我儘に子供をまっとうするべきだった。
しかし、みんな気づいてしまう。
「あぁ、僕はもう大人になってしまったんだ」
大人は子供の延長でしかない、ある日と境に突然大人になるわけではない。
みんな仕方なく、自然に大人になるんだろう。
僕は短くなったタバコを外へ放り投げる。
濡れたアスファルトにオレンジ色の光が小さく滲み溶けていく。
無邪気に、子供みたいに、僕は笑った。
「何者かになるために」
こんにちはちろです。
今回は「何者」を題名にお話を書いてみました。
読んでいただけたら嬉しいです。